したいのは、命と命の駆け引き。|スピアフィッシャー 小坂薫平
  • Interview : Yuriko Kobayashi
  • Photographs :Satoko Imazu(Portrait)/Koh Yamaguchi(Action photo)

2025.09.05

身ひとつで激しい海流が渦巻く海に潜り、手銛一本で魚を突く。小坂薫平さんは世界中の海をめぐりながら、まだ見ぬ巨大魚との遭遇を夢見るスピアフィッシャーだ。それは食料を得るための漁ではない。では、何のために命をかけてまで危険な海に潜り、魚を追い続けるのか。未知多き海と魚の世界に魅せられた男が目指す先を聞いた。
スピアフィッシャー 小坂薫平さん
―スピアフィッシングについてよく知らない人も多いと思います。どういうものなのか、教えてください。
小坂:スピアフィッシングは素潜りなどで海に入り、銛や水中銃を用いて魚をとらえるハンティングのひとつです。エアタンクを使う人もいますが、僕は素潜り。水中銃も使わず、手銛一本で魚を突くスタイルです。手銛というのは、長い1本の棒の後端にゴム紐がついていて、それを腕力で引いて握り、狙いを定めて撃つ。素材は変われど、人類が魚を獲る道具としては最古のものです。
スピアフィッシャー 小坂薫平さん
職人手作りの銛
―どれくらいの大きさの魚を獲るのですか?
小坂:スピアフィッシングの世界には記録があるのですが、僕が2021年に獲ったのは86.1kgのイソマグロという魚です。その時点では世界新記録でした。その後は「前人未到、100kg超えのイソマグロを仕留める」ということをテーマに年間250日ほどを国内外の海で過ごしています。
―100kg⁉︎ 小坂さんより大きく、重い魚ということですか……?
小坂:はい、大谷翔平さんくらい大きいのではないでしょうか(笑)? イソマグロはマグロという名がついていますが、分類的にはサバやカツオに近い魚です。犬歯のような鋭い歯を持っていて、英語圏では「Dogtooth Tuna」、アフリカでは「Devil Fish」と呼ばれています。銛が体に刺さると、ものすごい力で海底に向かって逃げていくので、その力に負けると海中に引きずり込まれて、二度と海面に浮上することはできません。
―素朴な質問ですが……、なぜそんな危険なスポーツをやっているのですか?
小坂:本当に、誰に頼まれたわけでもないのに、なぜ続けているんでしょうね……。しかも僕、大学で素潜りを始めるまで、完全なカナヅチだったんです。泳げないからこそ海の中がどうなっているのか知りたくて、海洋学者を目指して東京海洋大学に入学しました。そこで素潜りサークルに入って、海や魚の世界に魅せられてしまったんです。
泳ぐ小坂薫平さん
―巨大魚を手銛一本で突くことの魅力に開眼したのは、何かきっかけがあったのですか?
小坂:大学1年生のとき、ある海で巨大なヒラメに遭遇しました。無我夢中で銛を打ち込んだら急所を外れて、ヒラメはバタバタと暴れながら銛を持った僕を海中に引きずり込みました。全力で海面を目指して泳ぎ、何とかヒラメを引き上げようとしましたが、ヒラメは体を大きくよじって自らのハラワタを引きちぎって逃げました。あの時、手のひらごしに感じたものすごい振動は、今でもよく覚えています。魚に銛を打ち込むというのは、その命を奪うということです。だからこそ魚も命懸けで挑んでくる。あの強烈な振動は、魚から僕に対する「命のしっぺ返し」だった。だとしたら僕も、すべてのリスクを受け入れて、覚悟を持って命と命の駆け引きをしたいと思ったんです。
イソマグロが教えてくれた究極のゴール。
―この夏、小坂さんは目標にしていた100kg超えのイソマグロを追って、2ヶ月ほどの遠征をしていたと聞きました。
小坂:海の状況や自分の体調がベストではない期間が長く続いて、今回の遠征では獲れないかもしれないなと思っていました。何より、以前よりも「この1匹を突く!」という決断ができなくなっている自分に気づいて、それがなぜなのか、ずっと悩んでいました。これまで長くスピアフィッシングをやってきて、もう飽きちゃったのかなとか、感性が鈍ってきたのかなとか……。
―そのモヤモヤは克服できたのですか?
小坂:遠征最終日の前夜、ある心境の変化がありました。これまでは「100kg超え」という数字にこだわるあまり、この広い海のどこかに自分が理想とする巨大なイソマグロが必ずいる、それを追いかけて撃つ、というマインドだったんです。でも、それはちょっと違うんじゃないかって。広大な海のある一点に潜っている自分、その真下に偶然現れたイソマグロこそ、自分にとって縁のある、特別な存在なのではないかって。縁のないものを追い続けるのではなくて、何かしらの巡り合わせで出会ったものを大切にして、真剣に対峙し、ベストを尽くす。その先に究極のゴールがあるんじゃないかと思ったんです。
100kgのイソマグロを抱え泳ぐ小坂薫平さん
―ゴールは見つかりましたか?
小坂:遠征最終日、あと残り数時間というところで、イソマグロの群れが僕の近くにやってきました。それを見ながら、群れを守るようにして最後尾を泳いできた一番大きなイソマグロに銛を打ち込んだんです。その時はどれくらいの重さなのかわかりませんでしたが、結果105.5kgという、これまでの最高記録を更新するものでした。目標としていた100kg超えを達成できたことにほっとしましたが、それ以上に、自分が心から納得できる魚突きができたことが、何より嬉しかったですね。
―今回の遠征ではrounのアイテムに助けられたと聞きました。
小坂:遠征前にひどい腱鞘炎に悩まされていて、思ように銛を撃てない日々が続いていました。湿布を貼ったり、痛み止めの注射を打ったりして騙し騙しやっていたのですが、整形外科の専門医から、「きちんと体の声を聞いて、日々ケアすること、それができないなら一流のアスリートじゃない」と言われて。自分の体ともっと向き合っていかないとダメだなと思っていたとき、rounのスポーツバームの存在を知ったんです。
CBDスポーツバームを塗る小坂薫平さん
―どんな変化がありましたか?
小坂:海に行く前にスポーツバームを腕に塗って、しっかりとアイシング、海に潜った後にもしっかり塗ってマッサージしてアイシングするということを続けました。毎日丁寧にケアするとそれまでと全く違いました。遠征が始まってすぐは集中できなかったのが、スポーツバームを使い始めてからは、いいパフォーマンスができたと感じています。併せてCBDカプセルを飲んでいたのですが、海が荒れて思ように海に出られない日でも、焦る気持ちが静まって、リラックスできました。オフの日をゆっくり過ごせたことで、潜る日に集中力を高めることができたと思いますね。
小坂薫平さんの愛読書とCBDスポーツバーム
―大きな目標を達成した今、次に目指すことはありますか?
小坂:イソマグロへの情熱は、これまで以上にたぎっています。まだまだ大きいものに出会えることもあるだろうし、その縁を大切にして、これからも続けていきたいですね。海にはまだまだ未知の部分が多く、その秘密を解き明かしたいという思いは常にあります。海に潜っていると、自然や魚の信じられないような一面を垣間見ることがあるんです。そんな時、僕にしかわからない秘密を海が教えてくれたんだと思います。そんな瞬間に巡り会えることが何より嬉しいですし、だからこれからも、潜り続けていくんだと思います。
小坂薫平さん
  • Profile

    小坂 薫平/ Kunpei Kosaka

    1995年、秋田県生まれ。素潜りで世界中の海に潜り、巨大魚を銛で突き続けるスピアフィッシャー。2019年に18.3kgのコクハンアラを獲り、日本人初となるスピアフィッシングの世界記録を樹立。「100kg超のイソマグロを仕留める」ことをテーマに放浪生活を送り、年間250日を海で過ごすなか、25年6月に105.5kgのイソマグロの捕獲に成功。8月下旬よりその軌跡を発表する報告会を全国で行う予定。
    Instagram: @extreme_polespearin

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