循環しやすい自分を作るため。| プロトライアスロンコーチ 中村美穂
  • Interview : Toshiya Muraoka
  • Photographs : Satoko Imazu

2024.07.25

幼い頃から水泳の競技者として育ったが、社会人になってスポーツから遠ざかった時期もある。心身のバランスを崩し、再び立ち上がるために体を動かし始めた時に出会ったのがトライアスロンだった。今では、競技者としてだけでなく、コーチとして誰かを支える喜びも知った。中村美穂さんにとって強さとは、柔らかさ。そのしなやかで美しい姿は、いかにして作られているのか。毎日のための思考について聞いた。
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―中村さんがアスリートとして、あるいはコーチとして、日々の生活の中で大切にしていることを教えてください。
中村:体が資本ってよく言われますけど、本当にその通りで、体の調子によってパフォーマンスも、コーチングの際に選ぶ言葉も、表情や考え方も変わってくるんですね。体の調子がいいと選択肢がたくさん出てくるんです。なので、柔軟にいろんなものを選択する、自由度が高い自分でいられるようにしたい。古いものが体に蓄積したり、代謝しにくいものを取り入れたりするよりも、常に巡っている自分、循環しやすい自分が欲しいんです。そのためには、食べるものはもちろんですけど、肌に塗って経皮吸収する際にも、〈roun〉のような植物性のものは常に選択肢として側に置いておきたいと思ってます。
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―メンタルを安定させる意味でも、選択肢を増やしておいた方がいいと。
中村:はい、そう思いますね。選択肢が狭まってくると、集中力が増すんですね。でも、増すけれども先端が尖っていくんですよ。
切り詰めるという選択肢しかなかったら、いつかポッキリと折れてしまう。けれど私はたくさんの選択肢を持つことによって、集中力を増して切り詰めることもあれば、柔軟に緩めることもできる。そうすれば崩れないし、揺らがない。それは居心地のいい自分ってどこにあるんだろうと探して、たどり着いた今の在り方なんだろうと思います。
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―ストイックさが求められるアスリートでも、同じ考え方ですか?
中村:トライアスロンって、とにかく旅が長いんですね。私は特にロングディスタンスをメインにやってきたので。すると切り詰めたり神経質だったり、いつもの自分と少しでも違うと、崩れてしまうんです。トライアスロンの競技特性上、いろんなアクシデントが起こり得るから、私が欲しいのはむしろ鈍感力。もしバイクでパンクをしてしまっても焦らないし、この後に摂ろうと思っていたエネルギー源を落としてしまっても崩れない。もしかしたら、サングラスを落としてしまうかもしれない。でも、「どこかにアクシデントがあるさ」と思っているから、むしろ「キター!」って思える(笑)。
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―そこで柔軟性が試される、と。
中村:柔軟な選択肢を持ちながら普段から生きていると、ここぞっていうレースの時にも選択肢がババババっと頭に浮かびやすいんです。常日頃からたくさんの選択肢を持っている自分が、実はレースにも生きてくる。それは、自分の可能性を知っている、ということでもあります。
かつて私は、ギリギリまで切り詰めた時に、心の病気を経験したんですね。20代の頃。なので、反対側も持っておかなきゃって思ったんですよ。ただし、ゼロか100ではなくて、その間にたくさんの節を作って、そこに選択肢を置いておく。今日はもう頑張れないっていう時も絶対にあると思うんです。その時に切り詰める選択肢しか持っていないと、崩れてしまう。たとえ気持ちが落ちたとしても、大丈夫。また上がってくるから。そう思えたら、また一歩踏み出せるはずですから。
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―それはやはり、経験を積み重ねた上でたどり着いた境地なのでしょうか。
中村:それは大いにあると思います。ただ、実は「あの頃は苦しかった」っていう感覚はあまりないんです。会社員時代に摂食障害になってしまって、私は身長170センチあるんですけど、体重は30キロを切った状態で、2〜3年過ごしていました。側から見たら、きっとギョッとするほど細かった。働かなきゃいけないから、その状態で会社に行くわけです。でも、弱い人間であるという自覚があるから、少しずつ言動に覇気がなくなってくるし、周囲からも頼りにならない人だって思われてくる。私は、人がすごく好きなのに。人と関わって、プラスになるものを生み出していく感覚が大好きなのに。でも、誰からも頼りにされない。それで、すごく孤独を感じて、怖かった。だから強くなりたいと思ったんです。なぜなら頼られたいから。完治することができたのは、あの時に孤独になってしまう恐怖を感じたから。それが今の自分の力になっていると思います。私は今も強くなり続けたいんですね。筋肉をつけた鋼のような肉体が欲しいのではなく、ミホコーチなら必ず守ってくれる、寄り添ってくれる、支えてくれるって、そう思ってもらえる強さ。
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―その意味において、コーチはまさに天職ですね。
中村:そう思ってます。自分の中の生きがいになっています。
選択肢があることは、生徒さんにとっても大切で、私はみなさんにたくさんのカードを渡したいんです。「このシチュエーションには、このカードを使えばいい」、「カードをこう組み合わせればいい」って。さまざまなカードを受け止めて、自分のものにしておくかどうかは、もちろん生徒さん次第です。ただ、ガラッと変わることを求めるのではなく、グラデーションを大切にしています。動き方をバンッ!と切り替えるのではなく、グラデーションでいなしていくような感覚。すると動作って、サステイナブルに繋げやすくなる。
私自身はコーチとして、とにかく、その生徒さんに刺さるものを自分の引き出しの中から瞬間的にカードを出す。その瞬発力が大切ですね。だからコーチングのない日が続いてしまうと、頭の回転が鈍くなってしまうんじゃないかって少し怖くなります(笑)。その感覚は、自分の中の新陳代謝とリンクしているんです。
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―〈roun〉のアイテムを使う理由も、そこにあると。
中村:常に新しいものを取り入れて、古いものをどんどん出していきたい。「美容、何やってるの?」ってよく訊かれるんですが、私の選択はいつも「古いものが出ていきやすいもの」なんです。植物性の〈roun〉のプロダクツがまさにそうで、スキンケアのラインも全て使っています。CBDって肌に使うと保水力が高まるんですよ。だから最高なんですけど、ずっと使い続けてしまうと自分で水を蓄えようとする力が減ってしまう。2週間みっちり使って、1週間抜くというサイクル。トレーニングと一緒で、肌も甘やかさない(笑)。心も脳も、肌も筋肉も常に巡らせてあげる。それが、自分が潜在的に強くなるっていうこと。日々は、すべて繋がっていますから。
  • Profile

    中村 美穂/ Miho Nakamura

    世界でも数少ないプロトライアスロンコーチ。競泳からトライアスロンに転向し、IRONMANを中心に競技者としても指導者としてもトライアスロンの最前線で活躍。過酷な競技下でも、“強さと美しさをトレードオフしない”をモットーに、アスリート美容家としても講演会をはじめ活動の場を広げている。

    【戦歴】
    競泳
    2004 インターハイ優勝
    2003 インターハイ優勝
    2002 ジュニアオリンピック優勝

    トライアスロン
    2015/2016/2017/2019 99tトライアスロンカテゴリー4連覇
    2018 IRONMAN TAIWAN 70.3 カテゴリー第3位
    2018 IRONMAN 70.3 世界選手権出場権獲得
    2017 全国宮古島トライアスロンカテゴリー第3位
    2016/2017 ホノルルトライアスロンスプリント総合2連覇

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